Story 08保護者の皆さん、先生方へ

伊敷政英の写真

このたび、ロービジョンの子供たちに使いやすく、デザインもかわいい・かっこいいノート KIMINOTE を企画しました、伊敷政英(いしきまさひで)です。私自身、ロービジョンです。

私は普段、ウェブアクセシビリティという分野で仕事をしています。その中で企業や自治体の方々とお話する機会があるのですが、とても残念なことにロービジョンの認知度はまだまだ低いと言わざるを得ない状況です。「視覚障害=全く目が見えない」というある種のステレオタイプから、「視覚障害者へのバリアを解消するためには音声や点字で情報提供をすればそれで十分。」という偏った考え方が定着してしまっています。

こうした状況を改善したい。30 年後、障害者を含めた多様な人が積極的に参加できる社会を作りたいと強く思っています。

KIMINOTE は、ロービジョンの子供たちにノートの選択肢を届けるプロジェクトですが、それ以上に、KIMINOTE を通して子供たちや保護者の皆さん、盲学校や弱視学級の先生方へお伝えしたいことがあります。

「選ぶ」ということ

KIMINOTE は、ロービジョンの子供たちにノートの選択肢を提供するプロジェクトです。
東急ハンズやロフトに行くと文房具だけを扱うフロアがあって、ポケモンや妖怪ウォッチ、アイカツなどのキャラクターが表紙を飾るノート、花がらや星などがモチーフのちょっぴり大人っぽいノートなど、どれにしようか迷うくらいたくさんのノートがあります。そして、「どれにしようかな」と迷っている時間がとても楽しかったりしますよね。

その一方で、ロービジョンの子供たちが使えるノートはほんの1,2種類。特に小学生のお子さんが学校へ持っていきたくなるようなかわいい・かっこいいノートは 1 つもありませんでした。

私は、選んでいるときのワクワクや、お気に入りが見つかったときの「あっ! あった、これだっ!!」というドキドキをロービジョンの子供たちにも感じてもらいたくて、KIMINOTE を作りました。

「選ぶ」とは、自分で考えて行動すること。

ロービジョンの子供たちには、自分で考えて行動する力を身につけてほしいと切に願っています。与えられたものをそのまま使うのではなく、自分は何が好きなのか、どうしたいのかを自分で考え、それを実現するために自ら動き出す。そして自分のために選ぶことができたら、今度は友だちや家族のために選ぶ。「あの子はなにが好きだろう」「これを選んだらパパは喜んでくれるかな」。大切な人のことをじっくり考えて、動く。

そうした経験をたくさん重ねてほしいと思っています。

表現する言葉を持ってほしい

ロービジョンは視覚障害の 1 つですが、全く見えないわけではありません。少し見える状態です。ところが、この「少し見える」というのはとてもわかりにくいです。

どのくらい見えているのか、あるいは見えていないのかを、周囲の見える人が理解するのはとても難しい。おそらく、僕の両親でさえも、僕の見え方を正確には理解していないと思います。

さらに、ロービジョンの見え方は個人差がとても大きいです。ロービジョンの原因となった病気や視野(物の見える範囲のこと)の状況などによって見え方は違ってきます。視力検査で測った数値が同じ A さんと B さんがいたとして、A さんには見えるものが B さんには見えない、なんてことはよくあります。また、日中は同じように見えていた C さんと D さんも、夜になるとまったく見え方が違うなんてこともあります。

自分の見え方を一番よく理解しているのは自分自身だということです。

ロービジョンの子供たちは学校のクラスで、部活動で、自分の見え方、自分でできること・できないこと、サポートしてほしいこと、逆にしてほしくないこと、「ありがとう」や「うれしかったよ」の気持ちを、友達や先生にわかるように伝えなければいけません。また大人になってからも職場の同僚や上司、恋人やそのご家族などに、自分の状況や思いを伝える場面はたくさんあります。
これがうまくできないと、本人も周囲の健常者も、お互いのかかわり方がわからず、友達を作ったり、適切なサポートを受けて生活することが難しくなってしまうんです。

僕自身、小学生のころは友達や先生に何をどこまでお願いしたらいいのか、あるいは自分がしてほしくないことをされたとき、相手にそれをどう伝えたらいいのかわかりませんでした。それが原因で休み時間に遊ぶ友達がいなくてぽつんとしていました。中学・高校は盲学校で過ごしましたが、大学へ通うようになって健常者と接する機会が増えてからも友達作りには苦労しました。

KIMINOTE を使って友達やご家族、先生方と交換日記をするもよし、オリジナルの小説を書くのも楽しいかもしれません。植物の観察記録を取るのも面白いでしょう。こうした経験を通して、文章を書くこと、言葉で表現することの楽しさを知ってほしい。そして自分の状況や気持ちを伝える言葉を持ってほしいと願っています。

30 年後の僕たちへ

今、小学生の子供たちは 30 年後、立派な大人になっています。そのころ僕は今より視力が下がっているかもしれないし、あるいはロービジョン以外にも病気や障害を抱えているかもしれません。

30 年後、社会を作っているのは彼らです。彼らの中からものづくりや政策づくり・社会づくりに携わる人があらわれて、自らの言葉でロービジョンのニーズを伝え、障害者を含めた多様な人が参加できる社会を作っていってほしいと思います。ロービジョン向けのかわいい・かっこいいノートも当たり前に、どこでも安く手に入るようになっていてほしいです。

それによって 30 年後の僕も、子供たちも、そして皆さんも、便利に楽しく過ごせるのではないかと思うわけです。KIMINOTE は、30年後の僕たちに向けた取り組みでもあるということです。

今、見えづらさを抱えている子供たちにノートの選択肢を増やし、選ぶ楽しさと、自分の言葉で表現する大切さを伝えたい。そして 30 年後の僕たちが楽しく暮らせるようにするために、KIMINOTE を続けていきます。

どうかお力を貸してください

上でも書いたとおり、ロービジョンの人の見え方は千差万別です。KIMINOTE は現在 5 種類の罫線がありますが、まだまだ十分ではないと考えています。罫線については漢字練習帳や英語ノート、五線譜がほしいというご要望をいただいています。また表紙についても「もう少し大人っぽいノートがほしい」「やっぱりポケモンや妖怪ウォッチのノートがほしい」などの声をいただいています。

ロービジョンのお子さんのノートに対するニーズを正確に把握するためには、保護者の皆さんや先生方のご協力がどうしても必要です。皆さんと継続的にコミュニケーションを取って、KIMINOTE の改善を続けていきたいと考えています。

末永く、KIMINOTE をどうぞよろしくお願いいたします。

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